「Architecture Front 建築学会特別委の震災天井被害調査」が建設通信新聞に掲載されました
Architecture Front・建築学会特別委の震災天井被害調査
設備機器との取合部が危険⁄躯体は無傷でも深刻な被害
日本建築学会の特別調査委員会は、東日本大震災による天井被害のアンケート結果をまとめた。天井被害があった建物のうち、構造躯体にまで被害があったものはわずか2割程度にとどまっており、多くの建物は構造が無傷でありながら非構造部材に深刻な被害を受けていたことが分かった。また、天井が落下した場所は天井面端部のほか、設備機器との取り合い部で発生するケースが多いことも明らかとなった。
アンケートは、「非構造材の安全性評価及び落下事故防止に関する特別調査委員会」の委員が所属するゼネコン5社、設計事務所2社の調査結果をもとに、天井など非構造部材の被害が発生した建物の状況をまとめた。
被害が発生した建物の震度は、震度4以下ではゼロだったが、震度5弱で5件、5強で35件、6弱で58件、6強以上で29件発生しており、震度5弱以上になると天井落下が起こり始めることが分かった。
被災建物の主な用途は、有効データ127件のうち、事務室・会議室・教室が38件でもっとも多く、工場26件、ホール・展示場・食堂、店舗各15件、倉庫11件、体育館・アリーナ9件と続く。建築性能基準推進協会が4月にまとめた調査結果では「体育館・アリーナ」の被害がもっとも多かったが、同調査は特定行政庁へのアンケートをもとにしたものであり、特別委員会の調査は民間のデータが入ったことで内容が異なっている。
有効データ127件中102件は構造躯体の被害はなく、天井の被害が発生した。また、竣工年は同124件中114件が1981年の新耐震基準後となっており、耐震性能の高さと二次部材の被害発生は関係しないことが明らかになった。
天井が落下した場所は、天井面端部が59%を占め、天井面中央が46%となっている。続いて設備機器との取り合い部が34%あった。同特別委員会の小澤雄樹芝浦工大准教授は「設備にぶつかって落下する天井が多いことが分かった。天井裏にはさまざまなものが存在しているため、大きな課題になる」と指摘する。
天井落下に影響を及ぼした設備は、空調が43%、照明が26%、給排水管13%の順に多い。このように、建築本体と設備間の調整不足が、天井落下の原因となるケースが多く見られた。
構造種別は、有効データ126件中71件がS造となっており、S+RC造などS造を含むものは100件、8割近くとなる。小澤准教授は「S造は柔らかいため、揺れが増幅して天井落下につながる」とみている。
建物高さと被害のあった階の高さの関係をみると、高さ10mまでの建物はすべて最上階で被害が発生し、全体でみても約6割が最上階で発生していることが分かる。また、被災個所の床面積は500m2以上が7割を占めるなど、被害が発生しやすい個所の傾向は読み取ることができる。
同特別委員会の委員長を務める川口健一東大生産技術研究所教授は「今回集まったものはデータが取れる建物であり、実際にはもっと多くの被害が発生しているはず」と指摘する。同特別委員会では「人命保護」「機能維持」の2つの基本概念のもと、天井の安全評価法の確立などに取り組み、12年内をめどにガイドラインをまとめる。
(2012年8月23日:建設通信新聞)