メディア掲載
「日本建築構造技術者協会 金箱温春会長/非構造部材の安全確保へ/適判に設計者との面談を」が建設通信新聞に掲載されました
日本建築構造技術者協会 金箱温春会長⁄非構造部材の安全確保へ⁄適判に設計者との面談を
(本社暑中企画・団体トップに聞く)
建築物の安全性確保は、主体構造躯体の耐震性能に限らず、天井などの非構造部材や基準がないような細かい部分、それらに関係する施工までの品質を高めなければ実現することはできない。震災を踏まえて提言をまとめた日本建築構造技術者協会(JSCA)の金箱温春会長に、構造設計者の役割を聞いた。
- 構造設計者の役割の変化は
- 「建築主は、建築基準法を守っていても建物によって被害の大きさが異なり、どのグレードでつくればいいのかということを意識するようになった。その相談相手として、建築主の構造設計者に対する意識が変わってくる可能性がある。構造設計者としても問いかけにきちんとこたえるため、説明する技術を持たなければならない」
- 『東日本大震災からの教訓・JSCAの提言』をまとめた
- 「構造設計者として、まず何ができるのかということを考えた。震災直後から、日本建築学会や国土技術政策総合研究所が大がかりな調査を実施している。そこで公表された結果を構造設計者の目で見ると、起きても問題のない被害と起こしてはいけない被害が分かってくる。例えば、RC建築物の曲げクラックや仕上げの破損は仕方がないが、天井や外壁の落下は防がなければならないということだ」
- 「被害報告を見て感じたことは、ディテールが結構重要だということ。変形差が生じる部分や振動の増幅に気を遣い、想像力を働かせてどのようなことが起きるかを考えると、防げる被害はあったと思う」
- 意匠、設備、施工への提言も盛り込んだ
- 「非構造部材の安全確保に向けて、構造設計者は意匠・設備設計者、施工者への助言、情報提供に取り組む必要がある。例えば天井については、意匠設計者がメーカーの技術陣と打ち合わせしながら進めるが、現場の段階まできちんと技術的なフォローができるかどうかの確証はない。構造設計者はこれまで非構造部材にかかわる義務がなく、最初から一線を画していた部分はあったが、今後はきちんと取り付け方法などの相談に乗る必要がある」
- 「施工も重要と感じている。施工段階で、工事監理にもう少し構造設計者がかかわるようにしたい。構造の専門家が現場で重要な部分を確認できる体制を取ることができれば、防げる被害はある。課題は費用がかかること。報酬とセットでなければ難しい」
- 安全な建築物の実現に向けて
- 「まず、設計に適正な時間をかけることは非常に重要だと感じている。耐震強度偽装事件で制度が変わり、設計図書の整合性はすごくシビアに見られるようになったことで、建築、構造、設備を調整し、最後に設計をまとめる時間ができた。設計者は建築主に対して、その分の時間がかかることを説明してきたが、最近はそれがおろそかになっている。運用緩和されたことはいいことだが、運用に慣れてきたことで、調整の時間を短縮するように言われることがある。それは良くない」
- 制度がおかしいのか
- 「構造計算適合性判定制度(適判)は改善すれば良い制度になるが、そのためには3つの条件がある。1つ目が設計者と判定員が必ず面談、ヒアリングすること。面談すれば設計者の力量や考えが分かるため、審査する側もポイントが絞りやすい。2つ目はヒアリングの結果を反映して、設計内容の変更を可能にすること。3つ目は判定業務に向いていない判定員を排除できる仕組みをつくること。この3つがクリアできれば、良い制度になると思う」
- 「また改善案として、適判対象となる建築物でも、そうでない建物でも、ほとんど審査にかかる時間が変わらないようにすべき。時間がないから適判対象にならない設計をしようというのではなく、適判をどんどんできる体制にしなければならない。意味のある制度にすべきだ」
(2012年7月30日:建設通信新聞)